大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和63年(ネ)68号 判決

控訴人

前田直行

控訴人

中田光男

被控訴人

高岡市農業協同組合

右代表者理事

堀健治

右訴訟代理人弁護士

樋爪勇

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人前田直行の負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1  控訴人前田

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一)  本案前の答弁

主文同旨

(二)  本案の答弁

(1) 本件控訴を棄却する。

(2) 控訴費用は控訴人前田の負担とする。

二  当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

1  控訴人前田

(一)  控訴人前田は、昭和六二年三月二五日、松波淳一弁護士に本件第一審の訴訟行為をなすことを委任し、原審での訴訟行為は全て右代理人によって行われた。

(二)  原判決は、昭和六三年三月二三日言い渡され、同日、右代理人に判決正本が送達され、同代理人は、同月二四日差し出しの郵便で、右正本を控訴人の住所に送付し、そのころ同控訴人の妻が右郵便物を受領した。

(三)  同控訴人は、昭和六三年三月二三日午後八時三〇分ころ、自動車を運転中、富山県高岡市深沢八二番地で路外逸脱の交通事故を起こして受傷し、同月二五日から同月三〇日まで齋藤整形外科医院に入院したため、その間同控訴人の住居にいなかった。

(四)  同控訴人は、同月三〇日に退院、帰宅したが、判決正本が送付されていることを知らされず、同年四月六日になって、自宅のテレビの上に文書類が積み重ねられていることに気付き、その中に右弁護士からの郵便物があることを発見した。

(五)  したがって、同控訴人が、原判決言渡の事実を知ったのは、同年四月六日であり、その責に帰すべからざる事由で原判決の言渡を知らなかったから、これを知った昭和六三年四月六日を控訴期間の起算日とし、同控訴人の上訴権回復を認めるべきである。

2  被控訴人

本件控訴は、控訴期間を徒過してなされたものであり、その徒過の理由は不変期間を遵守できなかった正当な理由とはならない。控訴人前田には妻もおり、代理人からの文書を同控訴人に届けることは容易であり、また、昭和六三年三月二三日に判決がなされることも予め知っていたから、同控訴人が入院中であっても、控訴期間を遵守することは容易にできたものである。

三  証拠〈省略〉

理由

一先ず本件控訴の適否について判断するに、一件記録によると次の事実が認められる。

1  控訴人らは、昭和六二年一月一二日、被控訴人から本件訴えを提起され、控訴人前田は同年三月二五日、右事件の訴訟追行を松波弁護士に委任し、以後同代理人により訴訟行為がなされ、控訴人中田は公示送達による送達を受けたが口頭弁論期日に出頭しなかった。そして、昭和六三年三月二三日原判決が言い渡され、同日午後同判決正本が裁判所より右代理人宛に交付送達され、控訴人中田に対しては、同日公示送達の方法によって送達された。

2  控訴人前田は本人名で同年四月七日控訴状を原裁判所に提出し、控訴人中田からは控訴状の提出はないが、必要的共同訴訟人ということで、控訴人前田の控訴状の提出によって一応控訴人として扱われている。

二1  ところで、本件訴訟は、抵当権者である被控訴人から賃貸人・賃借人の控訴人両名に対する賃貸借の解除請求等であって、固有必要的共同訴訟と解され、一人の共同訴訟人から適法な控訴提起があれば、その効力は全員につき生ずると解される。

2  そこで、控訴人前田の本件控訴が適法であったか否かについて判断する。

先ず、上訴期間は各共同訴訟人について個々に進行し、期間遵守も個々に判断するのか、共同訴訟人に対し最後に判決正本が送達された日から全員につき進行し、自己についての上訴期間が経過しても、他の者の上訴期間が残っている限り、有効に上訴できると解すべきか、解釈上疑義があるので検討するに、民事訴訟法六二条一項は、必要的共同訴訟の場合、一人の訴訟行為は全員の利益においてのみ効力を生ずると規定しており、共同訴訟人の一人が上訴すれば、全員に対する関係で上訴の効力が生じ、全員が上訴人の地位につくとの解釈が導き出されるところであるが、右規定の趣旨は、訴訟の合一確定の必要から訴訟進行の共同歩調をはかったためと解するのが相当であり、それ以上に、共同訴訟であるが故に、共同訴訟人を他の訴訟当事者よりも、特に有利に扱う趣旨ではありえない。そして、訴訟当事者は元来別個であり、個別に訴訟行為をなしうると解すべきであって、例外的に合一確定の必要から共同進行をはかるにしても、その制約は必要の限度にとどむべきである。そして、共同訴訟人の一人が自己の上訴権を行使して上級審の判断を受けるというのであれば、自己の上訴期間を遵守すべきは当然であって、上訴期間を遵守すること自体は、共同訴訟であれ、通常訴訟であれ困難さに差異はないはずであり、上訴期間を自ら懈怠した共同訴訟人を、上訴しない他の共同訴訟人の上訴期間をいわば借用・流用してまで保護し適法化をはかる合理的理由は見出し難いといわねばならない。そのような期間経過の上訴を不適法としても、自ら懈怠した結果であってその者にとって過酷とはいえず、他の共同訴訟人にとっても、特に不利益ではない。もっとも、他の共同訴訟人が、前者の上訴を適法なものと信じ、上訴意思がありながら、手続省略の趣旨で自らは上訴しなかったという事情があれば、前者の上訴を期間経過を理由に却下するときは、予期しない不利益を蒙ることがあると思われるが、そのような場合は、後者について、訴訟行為の追完を考えればよいのであって、常に全員のために、上訴を適法の方向に解釈しなければならないというものでもない。そして、以上の解釈をとったとしても、上訴期間経過者の上訴を不適法とし他に適法な上訴提起者がないときは全員について判決確定の効力が生ずるとするのであって、手続の共同進行を損ねることにはならず、そもそも、前記のような他の共同訴訟人の上訴期間の借用と合一確定の必要とは必ずしも関連はないというべきである。

もっとも、一人でも上訴期間が残っていれば、判決は確定せず、全員について上訴期間の経過があったときに確定すると解されるが、自己の上訴期間が経過した者は自ら有効な上訴はできず、上訴期間のある他の共同訴訟人が上訴をすれば、その効力を受ける余地があるのであって、その意味で、全員について、未確定というに過ぎない。しかし、そうだからといって、自己の上訴期間経過者に適法な上訴ができるということにはならないことは前記のとおりである。

以上の理由により、必要的共同訴訟において、控訴期間は、各共同訴訟人に裁判の送達があったときから各別に進行し、一人の共同訴訟人が自己の控訴期間内に控訴を提起すれば、その効力は全員について生じるが、自己の控訴が期間経過後のものであれば、不適法であって却下を免れず、他の共同訴訟人の控訴期間が残っていたとしても、右期間経過後の右控訴が適法になると解することはできないというべきである。

そして、右判断に従うと、控訴人中田に対しては、昭和六三年三月二四日公示送達の効力が生じたから、同人については、その翌日より二週間後の同年四月七日が控訴期間の満了日になるが、控訴人前田については、本件控訴期間は、同控訴人の代理人に判決正本が送達された同年三月二三日より二週間の同年四月六日までであるから、控訴人中田の控訴期間に拘わらず、控訴人前田の本件控訴は控訴期間を徒過した後に提起されたもので不適法というべきである。

三控訴人前田は、控訴期間の起算日を昭和六三年四月六日とする訴訟行為の追完を主張するので判断するに、一件記録を総合すると控訴人前田の控訴提起が後れた事情は、次のように認められる。

1  前認定のとおり判決正本の送達を受けた弁護士は、三月二四日、「本日判決の言渡がありました。控訴されるのでしたら、三月二四日から二週間以内に(なるべく早く)控訴してください。」との手紙とともに右判決正本を同控訴人の住所に宛て、速達書留郵便で送付した。

2  同控訴人は、同月二三日午後八時三〇分ころ、交通事故により受傷し、同月二五日から同月三〇日まで齋藤整形外科医院に入院し、同日に帰宅した。しかし、右弁護士との連絡はとらなかった。

3  同控訴人宛の郵便物は同居の妻が受領していたが、同女は、入院中も退院後も右弁護士からの郵便物が来ていることを同控訴人に知らせず、同控訴人からも尋ねず、他の文書類と共にテレビの上に置かれたままになっていた。

4  同控訴人は、同年四月六日になって、自宅のテレビの上に文書類が積み重ねられていることに気付き、その中に同弁護士からの郵便物があることを発見した。

5  そこで、同年四月七日、本人名で原審に控訴状を提出した。右認定によると、入院期間は五日であって軽傷と思料され、したがって、同控訴人は、本件訴訟を松波弁護士に委任して遂行していたのであるから、同弁護士から文書類が送付された場合は、速やかに連絡するように病院から妻に依頼しておくとか、自ら代理人と連絡をとり訴訟の進行状況を把握するとか対処することが可能であったというべく、また退院した後、妻に郵便物の到着を確認すべきであり、更に四月六日本件判決正本を発見した際は、直ちに右弁護士に連絡をとれば、当日はまだ控訴期間内であったから電報による控訴提起の途もあったというべく、そのような注意をはらっておれば、期間満了の事態を招来することもなかったと認められるから、同控訴人が控訴期間内に控訴を提起しなかったことは、その責に帰すべからざる事由によるものとはいえず、同控訴人の訴訟行為の追完の主張は理由がない。

三よって、本件控訴は不適法であるから却下することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井上孝一 裁判官井垣敏生 裁判官紙浦健二)

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